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山形地方裁判所 昭和40年(ワ)21号 決定

申立人 菅原藤也

主文

本件申立を却下する。

理由

当庁昭和四〇年(ワ)第二一号損害賠償慰藉料請求事件の一件記録に徴すると、裁判所書記官後藤弥市郎が、準備手続裁判官西尾幸彦の審理する同事件昭和四十年四月十三日午後一時三十分の第二回準備手続期日に立会い、該期日につき、同事件原告の申立人が出頭せず、出頭した同事件被告蛸井文蔵及び被告蛸井を除く各被告等代理人も何等弁論をなさずに退席した旨の所謂休止調書を作成したのに対し、申立人より、昭和四十年五月二十一日受付の書面を以つて同書記官に宛て、申立人提出に係る昭和四十年二月二十四日受付、同年三月九日受付、同年同月十八日受付、同年同月二十三日受付、同年四月八日受付の準備書面五通が、民事訴訟法第百三十八条の適用により第二回準備手続期日に於て擬制陳述され、且つ次回の準備手続期日が昭和四十年四月二十三日に指定された旨の調書を作成すべきであると申立てられたところ、同書記官は、第二回準備手続調書の末尾に、申立人より右趣旨の申立がなされた旨附記するに止め、申立人の主張に副う調書の更正を行わなかつたので、申立人は更に、同事件昭和四十年七月二日午前十一時十分の第四回準備手続期日に口頭を以つて、準備手続調書の更正に応じない同書記官の処分に対し異議を申立てたと言う経緯にあることが明瞭である。

ところで、準備手続調書に対し、関係人よりの更正申立権の有無、申立権が有るとしたな場合申立の対象となるべき範囲、権利を行使すべき時期及び更正の方法等については、民事訴訟法は何等直接の規定を設けていないので諸説の分れるところであるが、調書の記載内容に明白な誤謬が存するのに是正を許さないとするのは妥当でない上に、訴訟手続の公正を担保する意味に於ても、関係人に、書記官に対する準備手続調書の更正申立を認めるべきであり、書記官が之に応じないで却下した場合は、民事訴訟法第二百六条に基づく異議の申立を許すと解するのが相当である。従つて、本件申立は同条に基づく適法な申立であると言わねばならない。

そこで審案するに、先ず、準備手続の審理に立会つた裁判所書記官は、該期日に於て自己の認識した内容を民事訴訟法第百四十三条、第百四十四条に則つて整理した上、固有の権限として手続調書を作成すべきであり、若し準備手続裁判官の認識内容が調書の記載と一致しないときは、裁判官は書記官に対し調書の記載の訂正を命ずることが出来、書記官が裁判官の命ずる内容が真実に合致しないと認めるときは、調書の本文を裁判官の命ずる内容に記載しても、之に書記官自身の意見を書き添えることが出来るように定められている。ところで、本件に於ては、後藤書記官の作成した第二回準備手続期日の休止調書に、西尾準備手続裁判官が之を認証する意味で捺印しており、裁判官が書記官に対し調書の記載につき訂正を命じたり、或いは之に対する書記官自身の意見を書き添えた形跡のないことが明白なので、同期日に於ける裁判官と書記官の認識内容が全く一致したものと認むべく、之に反し、西尾準備手続裁判官により、申立人主張の準備書面五通につき擬制陳述の措置が執られ、且つ次回の準備手続期日が昭和四十年四月二十三日と指定されたのに拘らず、立会の後藤書記官が五官の作用を以つて之を感得せず、その結果調書に右の記載を脱漏したものと認むべき証拠は一切存在しない。

更に、一件記録によると、同事件の昭和四十年二月二十四日午後一時の第一回口頭弁論期日に於て、申立人の訴状及び同事件被告等の各答弁書が夫々陳述され、その後に於て同事件が準備手続に付されていることが明白であるところ、民事訴訟法第百三十八条は、当初より準備手続に付された事件の第一回準備手続期日に適用されるべき規定であつて、本件の如く、既に実質的な第一回口頭弁論期日が終了した後に準備手続に付された事件に於ては、その後の準備手続期日に同条を適用すべきでないと解されるから、第二回準備手続期日に、申立人主張の準備書面五通につき擬制陳述の措置が執られなかつたこと及び続行期日の指定が行われなかつたことが当然推認されるところである。この点よりしても、後藤書記官の作成に係る調書に明白な誤謬があると認めることは出来ない。

以上の次第で、如何なる点よりみても、申立人の調書更正の申立は理由がなく、之を却下した後藤書記官の処分は相当であるから、本件異議申立は却下を免かれないものであるが、若しも申立人の不服の趣旨が、実際にどのような訴訟手続が行われたかと言うこととは一切関係なしに、とに角、申立人提出の準備書面五通につき擬制陳述を認め、且つ続行期日を昭和四十年四月二十三日に指定した旨の調書を作成すべきであると言う点にあるならば、それは、民事訴訟法第百三十八条及び裁判所書記官の手続調書作成に関する権限につき独自の見解を主張したに過ぎず、調書更正の申立及び民事訴訟法第二百六条に基づく異議とは全く別個の問題であると言わねばならない。よつて、本件申立を却下することとし、主文の通り決定する。

(裁判官 上田次郎 石垣光雄 西尾幸彦)

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